カフェ&ダイニング OASIS
店主 山本雄大さんの物語りの物語り
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カフェ&ダイニング OASIS 店主 山本雄大さんの物語り
小豆島は土庄。
海峡にかかる橋にほど近い、潮風薫るメインストリート。
通称「オリーブ通り」の一角に、
青と白を基調とした、さわやかな店がある。
カフェ&ダイニング OASIS
コーヒー紅茶にケーキといったカフェメニューはもちろん、
窯焼きの本格ピザを中心とした料理が食べられる。
シンプルでモダンな調度品を備えた、
ガラス張りの開放的な店内は、
地元の人や観光客でいつも賑わっている。
カウンターの奥で、
パスタの鍋を振り、窯にピザ生地を出し入れし、
と忙しく立ち働いている若い実直そうな男性が、
シェフの山本雄大さん。
ここで民宿兼カフェを営んできた一家の三代目。
この物語りの主人公だ。
カフェ&ダイニング OASIS 店主 山本雄大さんの物語り
四十年以上前からこの場所で、
民宿兼喫茶店を営んできた山本さん一家。
その長男として生まれた雄大さんは、
高校卒業まで小豆島で育った。
卒業後、働きに出た先は東京。
イタリア料理店で料理人の修業を始めた。
基礎を身に付けた後、知人の紹介で移ったのが、
新潟のピザ専門店。
ここでは本場イタリアのピザの奥深さに魅了された。
さらに北海道のレストランでも修行を続ける。
およそ十年に及んだ遍歴生活を打ち切り、
家業を継ぐために島に戻ったのは三年前。
どうせやるなら、
得意なものを生かして本格的にやろうと、
建物を改装し、ピザを焼く窯も設置して、
本格ピザを出すカフェを始めた。
カフェ&ダイニング OASIS 店主 山本雄大さんの物語り
いわゆる典型的なUターン者である山本シェフだが、
そのこと自体に、
何か特別な思い入れがあるわけではない。
「小豆島を背負って」
といったような気負いも別にない。
生まれ育った場所、
家族が居る場所に帰って来て商売をする。
ごく自然な、当たり前のこととして、
島に戻って来たのだ。
ただ、一度離れることで見えてきた、
島の良さは確かにあると言う。
「一番は人間関係ですかね。
人が身近なんです。
この店も、祖母の代から来てくれている、
地域の人で成り立ってますし、
改装も知り合いがやってくれました。
それに比べると東京の人間関係は希薄ですよね」
カフェ&ダイニング OASIS 店主 山本雄大さんの物語り
プロのシェフとして小豆島を見た時、
もう一つ山本さんが魅力を感じるのが、食材の良さだ。
新鮮な魚、顔の見える生産者が作る野菜、
イタリア料理に欠かせないオリーブ、
オリーブの搾りかすで育てた「オリーブ牛」等々。
山本さんは言う。
「良い食材が身近にあって、
皆に親しまれて調理の文化も成熟している。
ここに住んでいることで、
少なくとも僕は、東京に居る時よりも
料理の発想力が上がりましたね」
たとえばOASISのお薦めメニューの一つである、
モッツァレラチーズの小豆島産醤油漬けを使ったピザ、
「トーキチ」。
和洋の旨味が絶妙なバランスでまとまっている、
このピザを食べれば、
誰しも山本さんの言葉に納得せざるを得ないだろう。
カフェ&ダイニング OASIS 店主 山本雄大さんの物語り
窯焼きの本格ピザを出す職人として、
シェフにはもちろん様々なこだわりがある。
全粒粉を含めた三種類の粉の配合を研究し、
生地の美味しさを追求すること。
品質の高いチーズを求めて
北海道まで足を運ぶこと……
けれども一方で、
地元の人達のニーズに合わせた、
柔軟な店作りも心がけている。
「OASIS」という祖母の代からの店名を
そのまま受け継いだこと。
イタリアンという枠にとらわれず、
オムライスなども用意すること。
そうやって代々受け継いだ、
親しみやすいカフェの雰囲気も大切にし、
その中で少しずつ自分の色を出してきた。
その甲斐あってか、
本格ピザを食べたことがないゆえに、
マルゲリータを見て
「具が無いじゃないか」
と言った島の人達にも、
「OASISの本格ピザ」は浸透してきた。
「地元の方、観光で来た方を問わず、
来てくれたお客さんには常に全力投球する。
そうやってコツコツ商売をしていきたいですね」
山本シェフはそう語る。
カフェ&ダイニング OASIS 店主 山本雄大さんの物語り
生まれ育った場所で家業を継ぐ、
そういう自然な形で小豆島に戻った山本さん。
元々そこには、「小豆島を背負って」というような
気負いはなかった。
けれども最近、小豆島の過疎化については、
強い危機感を持つようになった。
このまま行ったら、
自分達の子供の世代は島で商売なんて、
できなくなるのではないか?
なんとかして移住者に沢山来てほしい。
今山本さんは強くそう思っている。
そのためには自分達のように外を見て来た若い世代が、
島のコミュニティの閉鎖性を崩していくこと、
それから、外から若い人たちが来たいと思える
魅力のある町づくりをすることが必要だ。
OASISは魅力ある町づくりの一助になっているだろうか。
そんなことを自問しながら、
山本シェフは今日もピザ窯の前で汗を流している。
カフェ&ダイニング OASIS 店主 山本雄大さんの物語り
小豆島に生まれ、祖母の代から喫茶店として営まれてきた土庄町の店を継ぐ。修行でさまざまな飲食店を渡り歩く中で本格ピザと出会い、自身の店で出そうと決意。小豆島の素材を使ったユニークなアレンジを加えて提供している。ピザのほかにも、パスタや小豆島オリーブ牛のステーキ、スイーツなど、メニューは豊富。
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