小豆島ガールの物語り
「魚伝」
ここは、小豆島で獲れたばかりの新鮮な
魚介が手に入る魚屋。
開店と同時に、旅館やホテルの仕入れ担当者が
続々訪れ、料理に使う魚を調達する場所でもある。
朝7時半。
ここに、少し場違いとも思える女性ばかりの
5人組が集まっていた。
「おはよう!」「あ、おはよー」
元気にあいさつを交わす彼女たちは、小豆島ガール。
ここ小豆島で日々、島の魅力をみつけては発信している。
この日、本当は7時からモーニングを食べる予定だったのに、
あいにく店が閉まっていて、
急きょ魚屋見学に変更したらしい。
そんなハプニングがありながら、
気を落とす人はひとりもいない。
にこにこ笑って、みんな楽しそうである。
「お魚おいしいんだろうなあ」
「カルパッチョが食べたい」
「さばける?」「さばけないよ」
なんて言いながら、
地面に置かれた大量のトロ箱の間を、
ずんずん進んでいく。
小豆島ガールの物語り
「きゃー!」
誰かが声を上げた。
顔を近づけたとたん、まだ生きていた魚がはねたらしい。
あちらのガールは、魚伝のおじさんに
「煮付けに合う魚は……」などと尋ねている。
みんな手にカメラを持ち、
めったに見られない獲れたての魚たちを
ものめずらしげに眺めている。
「お魚をまじまじ見ることなんて、ないよね」
小豆島ガールの運営メンバーは、全部で12人。
この日来ていたのは、そのうちの5人。
ガチコ、みかりん、ケリー、サエどん、もこママだ。
年齢も、職業も、性格もばらばら。
でもそれが楽しい。いや、それだから楽しい。
小豆島ガールのウェブサイト「きれいなものを、みつけに」では、
運営メンバーが毎日交代でブログをつづっている。
内容は、小豆島で切り取った何気ない日常だったり、
小豆島で出会った素敵な人やモノの紹介だったり。
別に、誰に何を言われてやっているわけではない。
自分たちが好きなことだけを、気ままに続けている。
小豆島ガールの物語り
小豆島のヤマロク醤油に行けば、サエどんに会える。
ここでサエどんは、醤油の販売や醤油蔵の見学案内をしている。
生まれも育ちも小豆島だが、大学生活は埼玉で送った。
さらに高松に約4年、そうして小豆島に戻って来た。
「簡単に言えば、どこにいても一緒かなって。
『ここで、これがやりたい!』っていうものがないなら、
自分のいたい場所に住んだほうがいいと思う」
小豆島ガールの活動を見ていると、
まるっきり友達同士の集まりと変わらない。
「大人になってから友達つくるのって難しいでしょ。
だから小豆島ガールの活動はすごく楽しいんだ」
サエどんによると、小豆島ガールの活動を取材したいと
訪ねてくるメディアもいるという。
「でも活動といったって、あまりにゆるいから……。
明確に『これやってます!』というのがあればいいけど、
何だかつかみどころがないんじゃないかな、取材する人は」
そういって苦笑するサエどんは、
この日、終始メバルかハギか、どちらを買うかで悩んでいた。
小豆島ガールの物語り
ガチコは北海道出身。
8年前、ホテルで働くために小豆島にやって来た。
最初は3ヵ月間の予定だったが、
少しずつ延長しているうちに、
すっかり小豆島のとりこになってしまった。
「住みやすいなあ」
それが島の印象。
いろんなところへ旅をするのが大好きなガチコ。
「小豆島は食べ物もおいしくて、景色もいい。
ありきたりな感想なんだけど、自分に一番合っている気がします」
実は8年の間に2回、島の外で暮らしたことがある。
でも、結局戻って来てしまい、今こうしてここにいる。
「人もあたたかくて、気さくに話しかけてくれる人もたくさん。
ここでの生活がすっかり定着して、すごく満たされている気分です」
ガチコのほんわかした雰囲気と
キラキラした大きな瞳の素が、この島にはあふれている。
小豆島ガールの物語り
小豆島で生まれ育ち、一度は岡山へ出た。
そして今また、小豆島で暮らしている。
本名の「ともこ」から「もこ」を取って、「もこママ」。
この日一緒に来ていたのは、小学校6年生の息子くん。
学校が休みの日は、こうして活動に連れ立って
来ることもあるという。
息子くんは、小豆島ガールたちに囲まれながら、
いろんな種類の魚に夢中だ。
元職場の同僚ふたりと一緒に小豆島ガールになったもこママ。
「自分たちが楽しみながら、それをほかの人にも
伝えられることが楽しい」
もこママも、もこママの旦那さんも、出身は小豆島。
実は今、生まれて10ヵ月になる赤ちゃんもいる。
やさしく微笑むもこママは、家族と一緒の島暮らしを
のんびりマイペースに楽しんでいる。
小豆島ガールの物語り
「これでも一応、月一回の会議はしてるんですよ。
会議中の雑談から、次行きたい場所を決めたり」
そう話すのは、小豆島出身のみかりん。
結婚を機に高松に出たが、
子供が生まれたため「子育ては小豆島で」と、帰って来た。
ちなみに旦那さんも小豆島出身。
「小豆島ガールは個性もいろいろで、
みんながその個性を認め合っているんです」
職場やママさんコミュニティだけでなく、
全然タイプのちがう人たちとつながることで、視野も広がる。
「自分のペースで、自分ができることをして。
みんながそういうスタンスだから、全然無理がない。
無理がないから楽しく続けられるんだと思う」
一瞬で終わってしまっては意味がない。
発信“し続ける”には、心から楽しいと思えることじゃないと。
みんなと笑い合い、楽しそうに写真を撮っているみかりんは、
好きなことに積極的だから輝いて見えるんだ。
小豆島ガールの物語り
「朝ご飯食べ損ねちゃったね」
これから仕事に向かうガチコとサエどんに、
ケリーが言葉をかけていた。
小豆島の醤油蔵や佃煮屋の立ち並ぶ
醤(ひしお)の郷に生まれたケリーは、
醤油ソムリエの資格を活かし、
醤油の魅力を広める活動をしている。
ウェブデザイナーとしての一面もあり、
ウェブサイトを通じて島のPRにも一役買っている。
好奇心旺盛なのか、この日も魚伝のおじさんに
何やら熱心に質問をぶつけていた。
カメラをかまえる姿もさまになっている。
「やっぱり、自分たちが楽しむことが一番。
それが、見ている人に小豆島の魅力として
映ってくれるといいな」
肩ひじ張らず、気の向くままに、自由に楽しく。
そんな空気感があるから、小豆島ガールは
みんなが笑顔でいられる。
しかし、彼女たち運営メンバーの中にも掟(おきて)はある。
その中のひとつが、「小豆島が大好きなこと」。
小豆島への「大好き」がなければ楽しくない、
まだ見ぬ宝物にだって気づけない。
素直に「小豆島が大好き!」といえる彼女たちは、
これからも小豆島に眠るたくさんの
「きれいなもの」をみつけ出し、
私たちに教えてくれるはずだ。
小豆島ガールの物語り
12人の運営メンバーを中心に、ウェブサイト「きれいなものを、みつけに」を通して小豆島の魅力を日々発信する。
【関連WEBサイト】 「きれいなものを、みつけに」http://shimagirl.jp/
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